ナチスの「ホロコースト」(ユダヤ人虐殺)は、世界史上最悪の出来事のひとつであることは間違いありません。
しかし、ナチスがユダヤ人を迫害する根拠とした思想は、ナチスが創り出したものではないことを、皆様はご存知でしょうか?
そして、ナチスの指導者であったアドルフ・ヒトラーには、実は彼自身がユダヤ人だったという驚くべき説が存在しています。
一体、ヒトラーはなぜユダヤ人を迫害したのでしょうか?
そして、ヒトラー自身がユダヤ人であるという説は事実なのでしょうか?
ここでは「ヒトラー=ユダヤ人説」真相7つの説について、ご紹介しましょう。
1.ユダヤ人が迫害を受ける3つの理由
「ユダヤ人」とは、本来ユダヤ教という宗教の信者、もしくはその家系に連なる者を指す呼び名です。
いわば、キリスト教徒を「クリスチャン」、イスラム教徒を「ムスリム」と呼ぶのと同じで、「ユダヤ人」という人種や民族が存在しているわけではありません。
ナチスがユダヤ人を迫害したことは有名ですが、歴史を紐解いていくと、ヨーロッパにおけるユダヤ人の迫害は、ナチスの時代(20世紀前半)よりもはるか古く、西暦392年のローマ帝国によるキリスト教以外の宗教=ユダヤ教の禁止から始まっていることを知ることができます。
つまり、ヨーロッパにおけるユダヤ人迫害の歴史は1600年以上前から続いていたのです。
それではなぜ、ユダヤ教が、ひいてはユダヤ人が、それほど古くから迫害を受けることになったのでしょうか?
それには、大きくわけて3つの理由を挙げることができます。
・宗教的理由
・経済的理由
・能力的理由
それでは、その「3つの理由」がどのようなものか、紹介したしましょう。
①宗教的理由~ユダヤ教とキリスト教の確執
いまや、世界の二大宗教であるキリスト教とイスラム教ですが、元は同じ宗教から派生したものです。
その2つの宗教の派生元となったのがユダヤ教です。
ユダヤ・キリスト・イスラムの3つの宗教は、共通して預言者アブラハムの教えをベースとすることから「アブラハムの宗教」と呼ぶこともあります。
キリスト教が成立した時代、ユダヤ教は古い因習や厳格な教義に囚われ、儀式的な行動様式に固まった宗教でした。
キリスト教は、行動や様式の遵守と実行よりも、より信仰そのものを重視する宗派として発生し、多くのユダヤ教徒がこれに賛同しました。
こうしたキリスト教の動向をユダヤ教会は危険視して、宗派の開祖であったイエス・キリストに警戒心を抱くようになります。
やがて、ユダヤ教会はイエス・キリストを犯罪者とし、ローマ帝国へと引き渡してしまいます。
キリストはローマ帝国によって処刑されましたが、イエスの死の責任はユダヤ人にあるとされ、やがてキリスト教徒から迫害を受けるようになりました。
②経済的理由~禁忌とされた業種での経済的台頭
キリスト教からの迫害を受けたユダヤ人は、自身の国家や土地を持てない民族となりました。
同時に、職業的な制約も大きく、ユダヤ人が営める職種は、キリスト教徒が好まない、禁忌とされるようなものに限られていました。
そんな職種のひとつが「金貸し」でした。
ユダヤ人には商才に長けているものが多く、「金貸し業」で大成する者を数多く輩出します。
また、ユダヤ人は自身の土地や国家を持ちませんでしたが、結果として多くの国々に拡散し、そのユダヤ人同士が強固なネットワークを形成するに至ります。
こうして、ユダヤ人はキリスト教徒の支配する世界において経済的な成功を収め、やがてロスチャイルド家のような国際資本を握る者たちが台頭するに至りました。
しかし、そうしたユダヤ人の経済的な台頭は、キリスト教徒からの嫌疑を招くことになります。
ユダヤ人はその経済力を持って、キリスト教圏を支配しているのではないか……その嫌疑はやがて、ユダヤ教徒に対する陰謀論へと変容していくことになります。
③能力的理由~知能程度の高い者を数多く輩出
ユダヤ人には知能程度に優れた者が少なくないとされています。
その根拠のひとつとされるのが、ノーベル賞です。
ノーベル賞の設立から今日に至るまで、その受賞者のおよそ20%がユダヤ人です。
しかし、1948年のイスラエル建国まで、自身の国を持たなかったユダヤ人の人口は、世界全体の人口のおよそ0.2%に過ぎません。
数の上では圧倒的なマイノリティであるはずのユダヤ人が、経済や学術の世界で成功し台頭することを嫌い、それに反発するものは少なくありません。
そのような嫉妬の感情が、前述したユダヤの陰謀論と結びついてキリスト教徒による反ユダヤ主義を形成するに至りました。
国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)もまた、こうしたキリスト教圏にはびこる反ユダヤの感情を利用し、彼らを迫害対象とすることで、第一次世界大戦の敗戦によって落ち込んでいたドイツ国民の意気を煽り、支持層を広げていったのです。
2.ヒトラー=ユダヤ人説を巡る2つの仮説
キリスト教圏の社会に古くから根深くはびこる反ユダヤ主義。
それを利用して、政治的台頭を果たしたナチスですが、しかしその根幹を揺るがしかねない仮説が存在しています。
それはユダヤ人迫害を扇動してきた、当のアドルフ・ヒトラー本人にユダヤ人の血が入っているのではないか、という疑問です。
ユダヤ人迫害を利用してきたヒトラーやナチスにとっては、この仮説は看過することのできない、重大な問題です。
果たして、なぜヒトラーがユダヤ人であるという仮説が生まれたのでしょうか?
そして、その可能性があるにも関わらず、ヒトラーは何故ユダヤ人を迫害したのでしょうか?
①ヒトラーの父親が私生児だったことで、ユダヤ人説が疑われる
「ヒトラー=ユダヤ人説」の根拠となったのは、ヒトラーから自身の身辺調査を依頼されたという、側近のハンス・フランクという人物が遺した文献です。
ハンス・フランクの調査によれば、アドルフ・ヒトラーの父親であるアロイス・ヒトラーは、その母親である女性マリア・アンナ・シックルグルーバーがフランケンベルガーという家で家政婦として働いている時期に生まれた私生児であり、公的には父親は不明とされています。
フランケンベルガー家はユダヤ人の家系である可能性があり、アロイスは母マリア・アンナがフランケンベルガー家の者と関係を持ったことで生まれたとすれば、アロイスの息子であるアドルフ・ヒトラーにもユダヤ人の血が流れている可能性があります。
ヒトラーにユダヤ人の血が流れている可能性を示唆するこの文献は、後の歴史研究家や作家の創作にも数多く引用されています。
日本でも、漫画家の手塚治虫が、この説を元にした作品「アドルフに告ぐ」を描いており、ヒトラー=ユダヤ人説は広く知られるところです。
ただし、この仮説は、当のフランケンベルガー家の存在が確認できないことや、フランケンベルガー家があったとされる地域がその当時ユダヤ人の居住が認められていなかった証拠もあることから、公的には否定されています。
②遺伝子鑑定の結果、ヒトラーにユダヤ人の血統が混ざっていることが確認される
「ヒトラー=ユダヤ人説」を科学的根拠を持って証明するため、2010年に、ドイツのジャーナリストのジーン・ポール・マルダーズ氏と歴史学者のマルク・フェルメレン氏によって、大規模な遺伝子検査が行われました。
ヒトラーの親族約40人から遺伝子を採取し検査を行った結果、彼らのDNAに「Y染色体ハプログループE1b1b系統」があることが確認されました。
このE1b1b系統とは、北方アフリカ系の住民に多く認められる他、ユダヤ人にもこの遺伝子を持っているものが多いことが確認さfれています。
研究グループは、この調査結果からヒトラーの家系にはユダヤ人の血統が入っていると結論し、そのセンセーショナルな話題は物議を醸しました。
専門研究家・マイケル・ハマー教授は、E1b1b系統を持つヨーロッパ人男性の80%はユダヤ人とは無関係であると主張し、この説を否定。
もともと、ユダヤ人という概念自体が、民族や人種を示すものではないことからも、一般的には、ヒトラーがE1b1b系統を持っていたとしても、それが彼がユダヤ人である直接の証拠にはならないとするのが公式の見解となっています。
3.アドルフ・ヒトラーがユダヤ人を迫害した理由として考えられる2つの説
結局、「ヒトラー=ユダヤ人」の仮説は、それを裏付ける証拠に乏しいことから、公的には否定された形になっています。
なにより疑問なのは、ヒトラーが自身にユダヤ人の血統が混ざっている可能性を知っていたとすれば、なぜあれほど苛烈にユダヤ人を迫害し、「ホロコースト」を起こしたのか、ということです。
果たして、アドルフ・ヒトラーを大量虐殺の狂気に導いたものの正体とは、なんだったのでしょうか?
①ヒトラー自身が、自らの出自に抱いた不安が原因となった
アドルフの父、アロイスがユダヤ人の血をひいているという確かな証拠はありません。
しかし、アロイスが私生児であった事実は間違いがなく、アドルフ・ヒトラーにとっては、父方の祖父が誰であるのかわからないことには代わりありません。
自らの血筋の出自が明らかにならないことが、アドルフを大いに不安にせしめたことは、容易に想像することができます。
自らの憎悪の対象であったユダヤ人の血が、自らの身体に流れている恐れがあるという可能性。
その事実はアドルフ・ヒトラーに激しい自己矛盾を覚えさせたことでしょう。
そしてその不安と恐怖が、ユダヤ人に対する敵意と憎悪を増幅した可能性も十分考えることができます。
自らがユダヤ人である可能性を否定しきれない、その事実が、逆に近親憎悪的な感情となってユダヤ人に激しい敵意を抱く原因となったのかもしれません。
②ヒトラーを操り、ユダヤ人虐殺を起こさせていた者がいた
しかし、実はもうひとつ、史実を覆す大きな可能性のある説を唱える者もいます。
その説によれば、アドルフ・ヒトラーは自らの意志によってホロコーストを引き起こしたのではなく、ある組織によって洗脳された結果、あの狂気の大虐殺を引き起こしたというのです。
その組織とは、ユダヤ教徒の異端者とも言われる者たちの集団、イルミナティです。
画学生を志していた時代、アドルフ・ヒトラーは悪魔崇拝の知識を得たと言われています。
悪魔崇拝を掲げるイルミナティはアドルフ・ヒトラーに接近してこれを洗脳、表の顔としての独裁者として彼を傀儡のよう操り、ユダヤ人の主流派を殲滅しようと企んだというのです。
ヒトラーの背後にイルミナティがいたかどうか、それを示す確かな文献は遺されていません。
しかし、ヒトラーがオカルトに傾倒し、自ら予言をなしていた事実は良く知られるところです。
アドルフ・ヒトラーの背後に、イルミナティが存在していた可能性を否定することはできないでしょう。
まとめ
ヒトラーがユダヤ人であるか否か、その真実がどうであれ、ホロコーストは現実に起こり、多数のユダヤ人が犠牲になった史実を変えることはできません。
どのような理由であっても、それは決して許されてはならない蛮行であり、そして、二度と繰り返されてはならない愚行です。
二度とこのような歴史を繰り返すことのない世界を作り上げること、それは現代を生きる私達の責務なのです。